「天才になれなかった全ての人へ」
表紙に書かれたこの強烈な一文で、すでに心をえぐられる大人は多いはずだ。左ききのエレンは、仕事に対する情熱と自分の限界の板挟みになっている人間にとって、目を背けたくなるほど痛い現実を突きつけてくる。
主人公の朝倉光一は大手広告代理店で働く普通のデザイナーだ。彼には抜きん出た才能がない。それでも何者かになりたくて、承認欲求と焦燥感に急かされるように徹夜で働き、不器用に泥臭くくらいついていく。一方、もう一人の主人公である山岸エレンは、ニューヨークを拠点に活動する本物の天才アーティスト。彼女は凡人が一生かけても届かない領域へ、いとも簡単に到達してしまう。
私自身、20人ほどの開発メンバーを束ねるマネージャーとして日々立ち回っているなかで、この残酷なまでの「才能の格差」を痛感する瞬間が何度もある。チームの中には時折、理屈ではなく直感で最適界を導き出すような、突出した才能を持つ若手が現れる。彼らの書くコードやアイデアを目の当たりにしたとき、自分は到底この領域には到達できないという諦めと、彼らの才能をどう活かしコントロールすべきかというプレッシャーが同時にのしかかってくる。
光一の姿は、才能がないと自覚しながらも現場にしがみつきたい我々そのものだ。彼が直面する数々の挫折は、いずれ自分が直面するキャリアの限界点を示唆している。プレイヤーとして第一線で戦い続けるのか、それとも才能ある部下を輝かせるための土壌作りに徹するべきなのか。30代後半という年齢に差し掛かり、今の役職や今後の身の振り方を真剣に考え始めている自分にとって、この作品が突きつける問いはあまりにも重い。
物語の中盤以降、単なる天才と凡人の対立構造から、チームとしてどう大きなプロジェクトを動かしていくかという群像劇へとシフトしていく展開も秀逸だ。一人では届かない目標に対して、それぞれの役割と才能のパズルをどう組み合わせていくのか。ビジネスにおけるマネジメントの真髄が、熱量の高い作画とともに語られている。
週末の夜に軽い気持ちで読むのはお勧めしない。自分の働き方や、今の組織での立ち位置について、嫌でも自問自答させられることになるからだ。だが、今の現状に何か燻るものを感じているなら、光一の不格好な生き様がきっと背中を押してくれる。
作品データ
- タイトル:左ききのエレン
- 著者:かっぴー(原作) / nifuni(作画)
- 出版社:集英社(ジャンプコミックス)

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