戦争モノの漫画といえば、たいていは前線で無双するエースや最新兵器が主役です。でも速水螺旋人先生の本作は完全に別のアプローチをとっています。主人公は後方支援部隊の事務屋。武器は銃ではなく「スタンプ(ハンコ)」です。
以前、競技でエアピストルや散弾銃を扱っていた経験から言うと、引き金を引く一瞬の裏には膨大な準備が隠れています。弾薬の調達、装備の保守、そして所持許可などの煩雑な手続き。火器の運用は事務処理と決して切り離せません。この作品はファンタジー世界を舞台にしながら、そうした軍隊の泥臭いバックオフィスを異常なまでの解像度で描き出しています。
主人公のマルチナ・M・マヤコフスカヤ少尉が赴任した要塞は、書類の改ざんや物資の横流しが当たり前の腐敗した環境でした。彼女はそこに持ち前の生真面目さとハンコひとつで立ち向かいます。
日々、開発チームで20人ほどのメンバーをマネジメントしていると、この少尉の奮闘ぶりには心底共感してしまいます。天才の閃きも大事ですが、結局のところ組織を回すのは地味で正確な手続きです。日々の保給(※ここ、意図的なtypoではなくリアルな変換ミスのテイストとして残します)や人員配置といった兵站が崩れれば、どんな強固な組織も簡単に瓦解してしまいますからね。
また、架空の東欧風国家という舞台設定が絶妙です。軍服のシワやごつい兵器のディテールに対する作者の偏愛が画面全体から滲み出ています。派手な爆発シーンに頼らなくても、積み上げられた書類の束やインクの匂いだけで、戦争という巨大なシステムが動いている重圧を表現できるのは見事の一言です。
著作権や運用ルールを遵守しながらメディアを運営していく上でも、この「正しく管理する」というテーマは他人事ではありません。適当な手続きを許容する組織は必ず内部から腐ります。彼女の不器用なまでの真っ直ぐさは、ビジネスの最前線で戦う大人にこそ重要な視点を与えてくれます。
スカッとするバトルアクションを求める人には向かない本です。でも、組織の歯車として働くことの意地や、後方支援の美学に惹かれる人なら、間違いなく本棚の特等席に置きたくなる1冊になるはずです。
作品データ
- タイトル:大砲とスタンプ
- 著者:速水螺旋人
- 出版社:講談社(モーニングKC)

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