【書評】『血の轍』第1巻を読んで:母という名の迷宮に引きずり込まれた話

本記事では、押見修造氏による人気漫画『血の轍』第1巻のあらすじ、見どころ、および読後感について、詳細な分析結果を提示します。本作は、母と子の歪な関係性を描いたサイコサスペンスであり、視覚的演出と心理描写において極めて高い評価を得て……。

──なーんて、AIみたいな硬苦しい挨拶はここまでにして。

正直に言います。この漫画、読み終わったあと本気で「うわ……」って声が出ました。胃のあたりが重くなるというか、自分の子供時代の記憶までひっくり返されるような、そんな得体の知れない不快感。でも、ページをめくる手が止まらない。

「普通」が一番怖い、という絶望

まず、1巻を読んで最初に感じたのは「このお母さん、綺麗だけど怖すぎる」っていう単純な恐怖です。

主人公の静一くんは、どこにでもいる中学生。お母さんの静子さんも、一見すると若々しくて、息子をすごく大事にしてる「理想の母親」に見える。でも、その「大事の仕方」が、読んでいくうちに少しずつ、確実にズレていくのがわかるんですよね。

例えば、静一の顔を覗き込む時の距離感。普通の親子のスキンシップを、ほんの数センチだけ超えてる感じ。押見先生の描く「目」が、とにかく雄弁なんです。優しく笑っているはずなのに、その瞳の奥には、息子を一個の人間としてじゃなくて、「自分の一部」としてしか見ていないような虚無感が漂っている。

この「日常に潜む違和感」の描き方が、そこらのホラー漫画よりもずっとキツい。お化けが出るわけじゃないのに、ページをめくるたびに、何かに監視されているような圧迫感があるんです。

言葉にできない「沈黙」の破壊力

僕がこの1巻で一番シビれたのは、台詞が極端に少ないシーンの多さです。

普通、漫画って状況を説明するためにモノローグを入れまくるじゃないですか。でも、『血の轍』は違う。数ページにわたって、ただ静一が歩いているだけ、ただお母さんが微笑んでいるだけ、というシーンが続く。

でも、その「無音」が、僕たちの脳内に直接「不安」を流し込んでくる。

夏の田舎道の、ジリジリとした暑さ。蝉の声すら聞こえなくなるような、親子の密室感。

文字がないからこそ、読者はキャラクターの表情からその意図を読み取ろうとして、結果的に静子の「狂気の淵」に自ら身を乗り出してしまう。この演出の「視考」の深さには、プロの表現者としての執念すら感じますね。(※思考、と書くつもりが「視覚」に引っ張られて誤変換しましたが、それだけ目に焼き付く、ということでそのままにします)

崖の上、一瞬で変わった世界

そして、1巻のラスト。あの「事件」です。

あそこまで溜めに溜めた「母の違和感」が、最悪の形で爆発する。

あそこで静子が見せた笑顔。あれを「母性」と呼ぶのか、それとも「純粋な悪」と呼ぶのか。

僕は、あれこそが本作のタイトルである『血の轍』──抗えない血縁という呪いの始まりなんだと感じました。

静一にとって、世界が音を立てて崩れた瞬間。でも、その崩れた世界を支えてくれるのは、世界を壊した張本人であるお母さんしかいない。この共依存の地獄が始まる予感に、鳥肌が止まりませんでした。

総評:読まない方が幸せかもしれない、それでも。

正直に言って、1巻を読み終わった後は全くスッキリしません。むしろモヤモヤするし、親孝行したくなるのか、親が怖くなるのか、自分でもよくわからなくなります。

でも、それこそが「傑作」の証拠だと思うんですよね。

絶体(※ここは絶対、と書くところですが、逃げ場のない感じを出したいのであえてこうします)に目を逸らせない、人間の業がここには描かれています。

「母親」という、誰にとっても逃げ場のない聖域。

そこがもし、地獄の入り口だったとしたら?

そんな不条理な恐怖を体験したいなら、この本は間違いなく「買い」です。ただし、読んだあとのメンタルケアは自己責任でお願いします。僕はしばらく、明るいアニメでも見て現実逃避するつもりです。

それくらい、この1巻のインパクトは凄まじかった。


【作品情報】

  • タイトル: 血の轍
  • 著者: 押見修造
  • 出版社: 小学館

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